高専ロボコンで全国優勝する方法 (アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト)

先日、とある高専専門学校のロボット部から依頼がきた。話を聞くところによると、そのロボット部は高専ロボコンでよい結果を残したいらしく、アドバイスがほしいとのことだ。私は沖縄高専のチームとして高専ロボコン第18~21回(2005~2008年)に参加した経験がある。また、その経験を過去にロボット学会および高専学会において発表または執筆したことがある。今回、これらを基本に加筆修正する形で資料を作成し彼らに送付した。

また、彼らに送った資料をこのブログで公開することにした。公開した理由は2つ。

1つ目は教育。高専ロボコンは森政弘名誉教授によって創設、今日まで発展を続け、氏はその意義について説いている。私がこうしてこれまでロボット技術に興味を持ち続けているのは、ロボコンに参加する機会を与えて下さった森先生のおかげとも言える。他の学生に知ることはロボコンの本来の意味にも通じるものがあると考えた。

2つ目は協力。近年Open Source Softwareの概念によってIT技術が飛躍的に進歩しているが、ロボット分野もその例外ではない。有名なプロジェクトにROS(Robot Operating System)、OpenCV(Open Source Computer Vision Library)などがあり、これらは世界中の大学や企業で使用され、ロボット技術の発展に貢献している。私もこれらのプロジェクトに助けられたことがあり、今回の記事は技術的なものではないが、少しでも工学分野に貢献できればという思いがある。


1. はじめに

「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」(以下高専ロボコン)は森政弘名誉教授によって創設されて以来、毎年開催され、今年で31回を迎える国内のロボット競技の中でも歴史ある大会の1つである。私は第21回大会において沖縄高専開校5年目にして初の全国優勝を経験した。本資料では、まず高専ロボコンの特徴を述べ、全国優勝可能なロボット(以下、高専ロボコンの慣習に乗っ取りロボットではなくマシンで統一)への要求事項を整理し、それを実現するための組織づくり、および開発スケジュールを、主に2008年度の高専ロボコンを例に紹介する。

2. 高専ロボコンの特徴

今日、ロボットコンテストは数多くの形式が存在する。まず高専ロボコンの特徴をまとめておく。出場マシンの大きさは1~2[m^3]、重量20~50[kg]、会場は屋内で基本平坦なフィールドを使用するというのは例年変わらない。しかし、その競技ルールは毎年大きく変更され、各チームは競技ルールが発表される4月後半から、地区大会本番の10~11月、また全国大会本番の11月後半~12月前半までの間にマシンを完成させなければならない。全国の高専から2チームが参加する全124のチームが、8つの地区大会に分かれて勝敗を競った後、25チームが全国大会に駒を進めその頂点を競う。

コンテストすなわち競技であるため、何らかの方法でマシンの優劣を決める必要がある。合理的に考えれば、各チーム単独でこなせる競技形式であれば、マシンの能力を1台ずつ複数回計測してその平均の成績を、対戦相手が必要な競技形式であれば、リーグ戦で総当りして算出した成績をもとに順位を決めればよい。しかし、高専ロボコンでは原則としてトーナメントによる試合形式が採用されている。

全国大会では、優勝とロボコン大賞の2つの賞を競うことになる。優勝はその名の通り、4~5回のトーナメント試合を全て勝ち続けたチームである。一方の大賞は審査委員会の選考により決定される。

3. 地区大会で敗退するマシン

私は高専ロボコンに4回参加したが、その内の3回はあっけなく地区大会で敗退している。まずこの失敗事例を紹介したい。

1年目、スタートゾーンからほとんど動けず一回戦敗退。はっきり言って大会までに完成させることができなかった。高専入学前に中学ロボコンへの参加を一度経験していたので、少しは自信があったのだが、マシンサイズが違いすぎた。新しい学校の2期生ということで先輩が極端に少なかったというのもあるが、金属の削り方、モータやギアの部品選定、アルミフレームの組み合わせ方など、その全てを試行錯誤して大会までに最適な答えを導き出す時間は無かった。地区大会に参加後、他校のピットを回って写真を撮りながら質問することで、次年度に向けての製作イメージを掴むことはできた。

2年目、完成したマシンは8割の競技課題をこなせるまでになり、地区大会ベスト4の好成績を残すものの、全国行きの切符は全ての競技課題をこなせた同じ学校のもう片方のチームに譲ることになる。この年から学校側の協力もあり毎日のように活動できる場所を確保できた。

3年目、全ての競技課題をこなすマシンを完成させ、学内で合同試合を何度も行うまでになった。練習での勝率は高かったのだが、大会当日の無線トラブルにより、マシンの能力を存分に発揮できずにあっけなく敗退した。もう片方のチームも全国に出場したものの、回路トラブルにより負けてしまった。

これら3つの失敗例からわかることは、まず全ての競技課題をこなせるマシンを作れる最低限の技術力が必要だということ、そして、どんなにいいマシンを作れても、大会でその能力を示せなければ記録には全く残らないということだ。

4. 全国優勝するマシンとは

出場校数バランスを鑑みて各地区からの全国参加枠が事前に決定されている。この枠数は新規の学校設立や再編などの特殊なイベントが無い限り変わることはない。また原則として各学校から1チームのみが全国大会に進むことができる。

全国への参加方法は2つに分けられる。まず、各地区大会を優勝した8つのチームは無条件で全国大会に参加する権利を手に入れられる。次に残りの17枠は、各地区大会毎に審査員の推薦により、主に特別賞を受賞したマシンから決定される。つまり、ここで気をつけなくてはいけないのが、例として九州沖縄地区大会の全国枠は4つだが、一般的なスポーツ競技のように試合結果ベスト4全てのチームが全国大会に参加できるわけではない。そのため地区準優勝チームが全国大会に参加できない事例を例年見かけることになる。

地区大会に出場する際、地区優勝を狙う競技に最適化したマシン、あるいは特別賞を狙う観客を沸かせるマシンのどちらを作るべきなのか、迷うかもしれない。全国優勝を狙うのであれば地区大会を優勝できるマシンを製作することを推奨する。事実として、全国大会のみが行われた第1~3回を除く全ての年の優勝チームに注目してみると、全国優勝チームの約70%(27大会中19チーム)は、その年の地区大会も同時に優勝している。

また、ロボコン大賞が設立されていなかった第1~4回を除くと、優勝とロボコン大賞を1つのチームが獲得する確率は15%(26大会中22チーム)であり、基本的には別々のチームがそれぞれの賞を獲得する。優勝マシンは安定して性能を発揮する必要がある一方、大賞マシンには観客を沸かし、審査員の記憶に残る派手な演出が求められる。どちらを目指すかによって、マシンに求められる性能は大きく変わってくる。”二兎を追う者は一兎をも得ず”といった結果にならないよう注意したい。

5. 結果を出す組織とは

他のロボットコンテストの、ROBO-ONE、全日本ロボット相撲、マイクロマウスの参加者を見てみると、個人もしくは数人でマシンを作って大会に参加しているのがわかる。大きくルールが変わることがないため、参加する機体を少しづつ改良していけばよいのだ。一方の高専ロボコンは毎年新しいルールが発表される。これが鬼門である。1人で放課後に作るマシンと、数十人が束になって作るマシンでは試行回数に圧倒的な差が開いてしまう。チーム戦が必須となるように設計されたロボット競技なのである。

以降、チームでマシンを作る際に抑えておくポイントを、2008年度の沖縄高専Aチームを例に、メンバーの役割、スケジューリングを紹介する。

6. メンバーの役割分担

過去の失敗例として、自分自身が、設計および製作責任者、操縦者、チームリーダーなどあらゆるものを兼任した結果、全ての職務をこなすことができず、チーム運営に支障をきたし、大会本番では指揮系統がパンクしてしまいチームの力を存分に生かしきれなかった。一方翌年は、役割分担を明確化、タスク分散することで人材リソースをあますことなく活かすことができた。そのときのチーム構成を紹介したい。

  • 機構班、二足設計担当 (4年生1人): 4回の大きな作り直しがあったが、全て1人で設計を行った。二足歩行マシンの設計時以外は、製作担当と協力して製作を行った。
  • 機構班、多足設計担当 (4年生3人): 多足歩行マシンは、二足歩行マシンより大型で部品点数も多いため、3人で設計を行った。二足設計担当と同様、設計期間以外は製作担当の補助として活躍した。
  • 機構班、製作担当 (4年生2人、1年生5人): 1年生には、4月の早い段階で機械加工の講習を済ませ、即戦力として部品加工の前線で活躍した。
  • 回路・プログラミング班 (5年生2人、4年生1人): マシンが完成してから作りだすのではなく、マシンの設計仕様に基づいて、機構班の設計と同時に回路及びプログラミングの設計・製作を始める。したがって、機構が完成したらすぐに回路を搭載、実証実験することができ、スムーズなスケジュール運営が実現している。
  • 操縦者 (4年生1人): 練習期間に入るまでは製作担当として活動した。他の役割と兼任していないため、練習と新規設計の同時進行など従来できなかったことができるようになり、より多くの練習をこなすことができた。大会本番では、操縦タスクのみに集中するため、あえてマシンの整備は全く行わないことで、安定したパフォーマンスを発揮した。
  • チームマネジメント (4年生1人): スケジュール管理、班ごとの連携をまとめるのマネジメント業務を担う。機構班、回路・プログラミング班のいずれにも属さず、常にチーム全体を見渡せるようにした。

特筆すべきは操縦者とチームマネジメント担当である。彼らはマシンの設計開発の実務には関わらない。ただ大会で結果を残すためだけに与えられた役割である。

7. スケジュール

「本場前日にやっとマシンが動きました。」こんな武勇伝を誇らしげに語る学生を見たことはないだろうか。はっきり言って二流のロボコニストと言わざるをえない。本番で結果を残すにはスケジュールを組んで計画的に取り組んでいく必要がある。ここでは1年間を、オフシーズン、シーズン上期、中期、下期の4つに分けて、それぞれの主だったポイントを紹介する。

7.1. オフシーズン

7.1.1. 準備(10~4月)

地区大会を敗退してしまった場合、時期によっては次年度のルール発表までに約6ヶ月の期間がある。これは言い換えると、大会に負けた次の日から、自分達で新しい競技ルールを定めて再出発すれば、1年に2回ロボコンが経験できるほどの期間である。この期間を有効活用しない手はない。実際に過去に取り組んだ例を紹介したい。

「3.地区大会で敗退するマシン」で述べた1年目のように、その年の競技を全くできなかった場合は、チームの技術力が圧倒的に足りていない可能性がある。まずは、他校のマシンをそのまま真似してでもよいので、期限を決めてアイディアを適切に実装し形にすることを目指した。あくまで一つの案を完成することに集中し、無理に独自性を出さないことに気をつけた。

次に、競技のほとんどをこなせるが、他校と比べタイムが遅い、得点が低いといった場合、その年に採用したアイディアは適切ではなかったかもしれない。他校のマシンを調査・参考にし、改良を加えるもしくは一から作り直し、より性能の高いマシンになるのか実際に検証した。

技術力も十分にあり、アイディアが適切だったにもかかわらず、惜しくも負けてしまった場合は、練習での成果を本番で安定して発揮できる力が足りていないと考える。その年のオフシーズンの取り組みの一例として、高校生が参加するロボット競技会である全国高等学校ロボット競技大会をチーム全員で観覧した。個人的に毎年ルールが変わる国内ロボコン競技の中で、上位マシンの洗練具合は、高専ロボコンや大学ロボコン以上に、この競技会が群を抜いて一番だと思っている。運営団体は異なるが、高専ロボコンと同じように自動マシン、手動マシンが存在し、トーナメント形式で勝敗を決める。全国大会では都道府県毎の予選を勝ち抜いた128チームがエントリーする。各地方の予選含めてどのくらいの数のチームが参加しているのか把握できなかったが、平成29年5月の文部科学省の統計によると、全国に工業科を置く高等学校は531校あり、これは高等専門学校の8.5倍の数であり、相当な規模の大会であることが容易に想像できる。そのため、参加チーム上位マシンの動きは見ていて無駄がなく洗練されているのがよくわかる。これらを観察することで、大会本番でのマシンの真のあるべき姿をイメージでき、それを実現するためのチーム作りに繋げることができた。

最後に私は体験できなかったが、近くの高専とオフシーズン中に合同試合を行ったり、有志により運営されている高専ロボコニストカンファに参加するなどして、技術交流をする学校もある。

7.2. シーズン上期

7.2.1. チーム結成(4月18日)

学校から2チームを選出する方法は、各学校によって様々である。私の在籍していた学校の場合、特定の学科や部活動への所属の有無に問わずに、参加希望の学生はロボット製作委員会に所属し、その中で20名ほどのチームを2つ作る形で結成されていた。この時期に、前年度のマシンをデモするなどして新入生の勧誘を行った。この年は、2・3年生をBチーム、4・5年生をAチームとし、1年生は各チーム人数が均等になるように分けた。各チームは、機構班、回路・プログラム班の2班に分けて編成され、各班内の上級生に教育係を設け、新入生への指導を開始した。

7.2.2. 目標決め(4月20日)

前述したとおり、大賞と優勝では根本的に達成すべきマシン要求が異なるため、この時点でチームはどちらを目指すのか決めておいた。こうすることで、後のチーム運営がスムーズにいく。またここですぐ取り組んだのは価値観を共有することだ。高専の4・5年生は編入や就職活動また卒業研究などで何かと忙しくなる時期だ。しかし全国優勝したいという強い志を持ち、これまでの大会に参加した経験のある上級生をなるたけ多く揃える必要がある。「なぜロボコンに参加しようと思ったのか。最後に一花咲かせてみたくないか。高専ロボコンは高専を卒業したら二度と参加できない。」といった言葉で強く説得した。もちろんシリアスな会話のために、楽しい雰囲気を壊してしまうリスクはあり、中にはその空気が合わずに辞めてしまったメンバーもいたが、早い段階で深く踏み込むことで、後に苦しい局面に遭遇しても共に乗り越えることができる。チームの目標が決まり、それに共感してくれる仲間が見つかれば、日々のマシン製作に当てる時間を明確に定めルール発表に備える。

7.2.3. アイデア出し(4月26日~5月19日)

ルール発表後、チームで決定した目標をもとに、その年採用するマシンのアイデアを考案する。2008年の課題は、対戦に使用する試合フィールドを各チーム半分に分けていくつかのタスクをこなして速さを競うタイムアタック形式だった。タスクには①多足歩行での旋回、②高さ200[mm]のハードル越え、③二足歩行でのスラロームがあり、それぞれの障害物で違反行為を行うと、大幅なタイムロスが与えられるルールであった。そのため、優勝するには、正確かつ俊敏なマシンが要求された。例えば他の競技ルールの例として、試合フィールドを共有かつぶつかり合うようなルールでは、強固でぶつかり合いに強いマシンが要求される。ルールブックだけでは使用可否の判断ができないアイディアがあればFAQを運営団体に提出して早めに確認する。

7.2.4. 試作(5月6日~5月12日)

この年の二足歩行マシンに使用するチェビシェフリンク機構は、過去に一度も製作したことが無かったため、実用できるか確認するために、アイデアを最終決定する前に試作を行った。設計は上級生が行い、製作および組み立ては、チーム結成から継続的に教育受講した新入生がその全てを行った。この工程は期間を一週間と定め、該当機構を確認するためだけのシンプルなものを製作した。

ここでのアイディア決定のための試作は必要最低限に留める。過去の失敗例として、全てのアイディア案を複数班に分けて試作した後に、それらの性能を比較検証するという例がある。自らが発案し一度作った機構に人は情を感じてしまうのか、各班が互いにいがみ合い、収拾がつかなくなってしまった。この経験から、どうしても複数案が出てしまった場合は、並行して同時開発をせずに、全員で協力し合いながら順序よく開発を行い評価するようにした。

7.3. シーズン中期

7.3.1. 設計、製作、改良 (5月〜8月)

マシンは作り直しをする度に洗練され、より高い性能を持ったものへと昇華されていく。アイディアが固まった後の5月後半から8月にかけては、設計→製作→改良という一連の流れが、約5回のサイクルで行われる。オンシーズンのメインパートとも言える時期である。同じアイディアのマシンを何度も作っては解体し、シーズン中は二種類のマシンを合わせて計10台以上の残骸が生まれた。シンプルな構造、かつ従来の技術をなるべく使用し、設計から改良に至るまでのサイクルをなるたけ多く回すようにした。さながら高専ロボコン版アジャイルソフトウェア開発手法とでもいうものだろうか。

ここで設計担当者が勝手に全く別のアイディアの設計を始めるのは論外だ。設計仕様はチーム全員で確認し、各マシンの設計担当者は、あくまでその設計仕様に基づいて図面に落としこむ。設計期間は2日間で終わってしまうものもあれば、長くて10日間かかるものもある。マシンの設計は、前年度に導入された3D-CAD 「Solid Works」を使用し、モデリングから図面出しまでを一貫して行っている。一度、紙で設計して、再度パソコンで設計する人もいれば、直接パソコンで設計する人もおり、個人によって様々である。マシンの設計図面をもとに、実習工場にて各部品を加工し、ガレージにて組立を行う。7日から10日間で完成するが、多くの場合、調整や改良を必要とする。

注意するべき点として、目的と手段を混合してはならないことだ。例としてこの年の回路班の設計思想を紹介したい。沖縄高専は、これまでに2回の全国大会出場を経験していたが、いずれの大会も回路系の不調で敗退した。基本的に試合中にマシントラブルが発生してもその試合が止まることはない。つまりほとんどの場合、相手チームが得点を獲得または速くゴールにたどり着いて敗北する。高専ロボコンに限らず、ロボットにありがちだが、回路トラブルの厄介な点は、故障箇所の特定に時間がかかる、環境依存性が強く、ときに再現性が無いといった点である。その経験から、この年は極力電気部品を排除した設計思想を取り入れた。ただし、通信トラブルによるリスク分散のため、通信方式には赤外線と無線両方での冗長な設計とした。つまり、具体例として、モータをなるたけ少なく、コネクタは最小限、電気配線を短く、可動部にはリミットセンサの代わりに機構的な制限を設ける。電気回路が複雑になるのを避け、FETを使用したPWM制御ではなく、簡易なリレーを使用したON-OFF制御のみの回路とした。

もちろん、こうして出来上がってしまったマシンはピット裏で他校に自慢できるものではない。当たり前だ、これまで勉強してきた技術書のページをわざわざ巻き戻して最初の章に書いてあるような基本的な知識で構成されているものだからだ。技術者は複雑で高等なものに感動を覚える生き物だ。だが手段を見誤ってはいけない。前年度のマシンよりローテクな技術になっても全く構わない。新規開拓はオフシーズにいくらでもやればいい。あくまで冷酷に目標に忠実になりアイディアを実装することだ。

またこの年、マシンは二足および多足の2種類製作する必要があった。あえて各設計の完了時期を半周期ずらした。こうすることで、新入生をメインとした機械加工チームは常に何らかのマシン製作を行うことができた。また、「6.メンバーの役割」で紹介した通り、マシン操縦専用の担当者を設けていたため、ここで完成したマシンの練習を行い、それと同時に各設計担当者は新しいバージョンのマシンをデザインした。以上の工夫により、手持ちぶさたになるメンバーを無くし、チームをフル稼働で運営することができた。完成したマシンを走行実験し、改善点を挙げ、手を加えていく。ここで改善できなかった問題点は、次のバージョンの設計仕様に組み込まれることになる。

これらの工夫により、ルール発表から約2ヶ月後の6月23日には全ての競技課題を安定してこなすことができた。有線によるマシン操縦であるもの競技時間3分中、50秒弱でゴールを記録している。また、7月6日に校内で開催されたオープンキャンパスでは、マシンに回路部品を搭載し、赤外線通信でのゴールに成功し、観客の前で8回の実演を行った。いずれも二足歩行ゾーンのパイロンが無い状態ではあったものの、地区大会まで約3ヶ月前の課題クリア及びマシンの一般公開は、沖縄高専史上、異例の事であり、この年のスケジュール管理能力の高さが再認識できた出来事であった。

7.4. シーズン下期

7.4.1. 本番練習(9月~10月)

設計→製作→改良という流れを一通り終えると、練習期間へと移行する。ここであえて新規のバージョンの開発を完全に止める。技術者というのはいつまでも新しいアイディアを実装したくなるものだ。これはポジティブデータを一度だけ取れればいいような競技ではない。地区大会とトーナメントの位置によるが、7~10回連続でミスなく勝ち続けなければならない。

ここで異なる2タイプのチームの話を紹介したい。チームAは練習時間を確保し95%の確率で競技を行えることができた。チームBは練習不足のため競技を成功できる確率が50%であった。このチームが、10回連続ミスなく競技を行える確率を計算すると、チームAは59.9%、一方のチームBはなんと0.0977%である。このように大会本番までにいかに1回あたりの成功確率を上げ、安定したタイムを叩き出すことができるかが鍵であり、この練習期間がその要となる。

前述した通り、この時期にはマシンの形が定まっているので、練習と並行してマシンの外装製作を行った。目的はあくまで全国優勝であるため、地区優勝を逃したときの全国大会に行くための特別賞狙いのおまじないみたいなものだが、やっておかない手はない。

さて練習には大きく分けて、走行練習と模擬試合の2つがある。

前者は操縦者がマシンに慣れるための練習で、競技の開始から終了までをひたすら繰り返す。その総練習回数は三桁を越えた。走行練習の中で安定しない機構は、改良点として取り上げ、その度、調整・改良が施される。

後者は試合を想定とした、操縦者を含めたメンバー全員のリハーサルで、毎週日曜日と時間を決めて、地区大会、全国大会前にそれぞれ5回行った。F1のピットシーンをイメージしてみてほしい。彼らは超高速でオイルやタイヤ交換を行う。これと同じようなチームをロボコンで実現させる。チェックリストを作成し、前日のマシンの計量計測、5分間のテストラン、1分間のセッティングタイム、数メートル四方の狭い整備空間、整備ゾーンからスタートゾーンへの往復、試合間の短い整備時間、試合中のペナルティからの復帰等、出来る限り本番に近い状態を再現して練習を行った。模擬試合の様子はビデオカメラにて記録し、練習後はメンバー全員でミーティングをした。整備のし辛さ等、通常の練習では得ることのできない問題点が挙がり、大変有意義なものとなった。

7.4.2. 九州・沖縄地区大会(10月19日)

威圧感。私が初めて地区大会に参加したときに強豪チームからひしひしと感じとった印象だ。スポーツと同様に、高専ロボコンにおいてもユニフォームなどから受け取る印象は勝敗に影響を与えると私は考えている。競技に人が操作するマシンが介在するからだ。特に全身赤のつなぎの作業着をまとった集団は驚異的で、実際に対戦してボロボロに負けてしまったことがある。そこからヒントを得て、青のつなぎの背中に「夢創人」と記した作業服を特注して製作した。どこまで効果があったかはわからないが、あらゆる角度から優勝の可能性を上げる方法は無いか試したうちの一手である。

前日のマシン計測は一番に終わらせ、その後の整備時間およびテストラン時間をなるたけ多く確保した。テストランは学校で自作したフィールドと違いはないか本番前に確認する貴重な機会だ。テストランをする際、他校の偵察を嫌い、あえてマシンの動きを全ては見せない戦略をとるチームもある。しかし、限られた時間で何度も練習をすること、また周囲にプレッシャーを与え、チームの士気を高めるという意味でも、惜しみなく全力で取り組んだ。

大会会場ではルールブックの再確認、入場行進のリハーサルなどでチーム代表数名が何度か現場を離れる必要がある。これらの際にも模擬練習通りにメンバーが継続して整備およびテストランが行えるように事前に練習しておく必要がある。

この年に出場したマシンが、足回りにしようしているモータが左右で出力が異なる配置をしており、赤ゾーンと青ゾーンに合わせて左右を入れ替える必要があった。これは学校の予算の都合、また部品発注のミスがあり、仕方なくこのような運用をしていたのだが、当時保有していたリソースではこれが地区大会において最速の結果を出すやり方だった。ただしこのような試合ごとに大きな整備を必要とするマシンにはリスクがある。なぜなら本番はトーナメント形式のため、試合が進むにつれてマシンの整備時間が短くなっていくからだ。準決勝から決勝は5~10分間と記憶している。このように、マシンに特別な整備箇所がある場合は、大会前の練習期間において、整備を正確かつ素早く済ませられるよう訓練をしておく。

本番、「沖縄高専A(Movement)」は、1回戦は安定した動きを見せたが、2回戦では、2つ目の障害物(ハードル越え)に失敗し、相手チームと僅差のゴールとなった。3回戦以降は、安定した動きを取り戻し、決勝戦では41秒でゴール、初の地区大会優勝となり、全国大会の切符を手にした。なお、決勝戦での41秒の記録は、各地区大会の中で、最速の競技課題クリアタイムである。

7.4.3. 全国大会(11月23日)

地区大会の時期にもよるが、全国大会までに約1ヶ月の猶予が与えられる。また年によっては、フィールドやルールに若干の変更が加えられることがあり、その都度対処する必要がある。地区大会からのマシンへの大きなアイディア変更は認められないが、細かな改良はどのチームも行ってくる。私のチームでは前述した左右非対称のマシンの足回りを全て同出力なモータに揃えること、かつ足回りのモータ合計出力を並列化により1.5倍に増やす等の最低限の改良を加え、ほとんどの期間は練習に励んだ。

本番、1回戦は予選という位置づけで、全25チームがタイムを計測し、その記録上位8チームが決勝トーナメントに進むことになった。「沖縄高専A(Movement)」は、1回戦では、多足ゾーンでのミスによるタイムロスがあったが、47秒でゴールし、予選を3位で通過した。決勝トーナメントでは、2つ目の障害物(ハードル越え)を特に慎重に行い、確実に決勝戦へと駒を進めた。決勝では38秒の大会新記録を樹立し優勝した。

8. おわりに

私なりに高専ロボコンで押さえるべきポイントを紹介してみた。高専ロボコン以降、10名を越えるチームでロボット競技に参加できた経験は一度も無い。また、自分自身の手でマシンの設計開発をやりたい気持ちを押さえて、マネジメント担当としてチームを効率よく運営する業務に携われたのは貴重な経験であった。本資料が高専ロボコンに参加する方々への参考になれば幸いである。

9. 参考文献

[1] 白久レイエス樹. ロボット製作委員会. NHK高専ロボコン優勝への道.日本高専学会誌.2009, vol. 14, no. 2, p. 29-32.

[2] 白久レイエス樹. ロボット製作委員会. セッション,沖縄高専におけるNHK高専ロボコン優勝への道.ロボット学会.2009. RSJ09-0476_p01, OS25 ジュニアセッション(2) (高専ロボットセッション).

[3] 森政弘. ロボットコンテストの教育的意義. 一般社団法人学士会. 2001,vol.10, No.833.

[4] 高等学校学科別生徒数・学校数. 文部科学省. (20180422閲覧). http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shinkou/genjyo/021201.htm